『風サワグ地ノ逃亡者タチ』神坂一

(勝手に10段階評価。4が標準、10が最高)

 スレイヤーズシリーズが爆発的にヒットした、ライトノベル作家神坂一クロスカディアシリーズ4巻目。作品の基本は笑いであり、随所にギャグがあって楽しい。感動的なシーンでも、あっさりと笑いに持っていってしまう。それでいて、ちゃんと余韻も残すというのは、簡単に見えて意外と難しいことだと思う。
 だが、スレイヤーズに比べると、このシリーズが劣って見えてしまうのは仕方ないことだろうか。クロスカディアという世界や登場人物の設定はよく考えられているし、ストーリーに無理もなく、適度に謎を残しつつ進んでいく物語は魅力的である。
 しかし、スレイヤーズが基本的にリナの一人称視点であったのに対し、本作の場合、頻繁に視点人物が移り変わり、読みにくい。確かに、同じ場面での各人物の心情を見せたいのは分かるが、次から次に視点が変わると、誰の視点なのかがすぐには分からないし、時間が進んでいるのか、それとも前の場面に戻っているのかもよく分からなくなってくる。
 ライトノベルは読みやすい文体が求められるジャンルだと思うので、もう少し工夫して欲しい気がする。とはいえ、作品自体は面白く、続きが読みたくなる構成なので、悪くはないと思う。
 本作では、メイの秘密が分かり、今までの逃げるだけの行動から、新たな目標を持っての前進へと変わった。また、シンの秘密や月の持つ意味もだんだん見えてきて、ますます目が離せない。そして何より面白い「あとがき」も健在である。あと2巻で物語はどうなっていくのだろうか。