ジャニーズ事務所の強硬的なWeb戦略はいつまで続くのか?(1)

 早速だが、NHK大河ドラマ「義経」のWebサイトを見ていただきたい。
 このサイトをはじめて見たとき、私はとても驚いた。義経役の滝沢秀明の画像が掲載されているからだ。ご存知の方も多いと思うが、ジャニーズ事務所は肖像権管理に厳しく、たとえテレビ局のサイトといえども、タレントの画像を使うことを許可してこなかった。それが、とうとう許可されたのである。フラッシュを利用したものではあるものの、今までの状況を考えれば、大変な進歩であろう。
 ジャニーズ事務所といえども、Web戦略において今までのような強硬姿勢を転換せざるを得ない状況に来ているのではないだろうか。ジャニーズ事務所のWeb戦略について、2回(回数未定)に分けて見ていきたいと思う。

頑なな強硬姿勢

 下記に挙げた『サイゾー』の記事はジャニーズ事務所の「超」強硬姿勢を批判的に扱った記事である。
「自社ホームページも当然ナシ!ジャニーズ様はネット上で拝顔不可能」(『サイゾー』2004年10月号掲載)
 この記事が掲載されたのは約一年前。この記事と比べて何か変化しただろうか。変化したとすれば、たった一つだけである。それは上述した「義経」の件だ。
 記事中にあるように、昨年の大河ドラマ新選組!」の公式サイトでは主演の香取慎吾の画像は掲載されなかった。だが、すでに冒頭で述べたように、NHK大河ドラマ「義経」の公式サイトでは主演の滝沢秀明の画像が掲載されたのである。
 ただし、これに関しては、例外である可能性が高い。現実に、他のドラマの公式サイトはいずれを見てもジャニーズのタレントの画像は一切掲載されていない。Wikipediaのジャニーズ事務所の項には、「義経」の公式サイトについて、「開設当初はシルエットで公開していたが、その後フラッシュによる顔写真に差し替えられ」たという記述があるので、NHKの担当者が東奔西走した結果なのであろう。今後、他のテレビ番組のサイトでジャニーズタレントの画像が掲載される可能性は低いように思う。
 つまり、めまぐるしいネット業界の変化にもかかわらず、ジャニーズ事務所はほとんど変わっていない。『週刊ザ・テレビジョン』『anan』も公式サイトを見れば分かるように、ジャニーズタレントが表紙を飾った場合は巧妙に加工され、タレントの写真が消されている。
 その一方で、CD・DVDのジャケットなどの画像は、以前より掲載されている(全てというわけではないが)。Amazon.co.jpを見ると、KAT-TUNのDVD2枚(「お客様は神サマー」「KAT-TUN Live 海賊帆」)などは顔写真が映っているものの、普通に掲載されている(なので、下部のような掲載は可能)。
 雑誌の表紙が不可で、CDやDVDは可である理由が分からない。Amazon.co.jpに掲載されている画像の方が、雑誌の表紙よりも大きく鮮明に写っているではないか。CD等は売り上げが事務所の収入に直結するからだろうか。それとも、出版社には高圧的な態度をとれても、流通業者には弱いのだろうか(ただ、単純に画像を掲載しないでほしいと言えば良いだけだろうから、この可能性は低い)。
 ちなみに、『サイゾー』の記事タイトルには「自社ホームページも当然ナシ!」とあるが、この記事が掲載された時点でもすでに公式サイトは開設されていたので、この部分は誤りである。
 その公式サイトだが、ジャニーズ事務所に関するサイトは3つある。Kinki KidsやNEWSらが所属するレコード会社「Johnny's Entertainment」(2003/12/05〜)、嵐が所属するほか「KAT-TUN Live 海賊帆」などのDVDや映画の制作も行っているレコード会社「J Storm」、そしてジャニーズタレントのファンクラブ組織「ジャニーズファミリークラブ」のサイト「johnnys net」(2003/12/05〜)だ。
 この他、携帯向け有料サイトの「Johnny's Web」(2003/05/14〜)もあり、所属タレントによる日記やエッセイなどの文章だけでなく、着信メロディ、着信ボイス、待ち受け画像などもあるそうだ。なお、登録していないので分からないが、紹介文をみる限り、画像というのはタレント自身の写真ではなく、タレントが書いたイラストやタレントが撮影した写真などのようである。

強硬姿勢の転換期

 これらの状況を見てみると、ジャニーズのWeb戦略は2003年を機に変化したようだ。そして、2005年になって初めて所属タレントの写真の掲載が許可された。今まで絶対に許可しなかったことを考えれば、たとえ例外であっても、進歩と言って良いだろう。この進歩、大きく言えば転換だが、その背景にあるのは、ネットビジネスの急激な進歩と、それに伴うコンテンツ産業の発展であると考えられる。
 現在、日本のコンテンツ産業自動車産業に次ぐ市場規模であるといわれている。ブロードバンドの普及により、流通の力が弱まり、コンテンツを生み出す側の力が強まってきた。数年前まで群雄割拠の様相を呈していたISP(プロバイダー)が次々と淘汰されていった現状からも分かる。ネット業界でさえも、コンテンツを生み出すことの出来ない企業は一掃される傾向にあるのだ。
 さらに、コンテンツ産業が力を持ってきたことを象徴するのは、吉本興業日本経団連入りであろう。それに次いで、ゲームメーカーのコーエーなども経団連に加入した。コンテンツ産業なくして、他の産業なしという認識が一般に広まった結果といえる。
 このような状況を、吉本興業と同様に巨大な芸能プロダクションであるジャニーズ事務所がいつまでも静観しているとは考えられない(もし静観しているとすれば、それは重大な判断ミスである)。コンテンツビジネスの中心がいつまでもテレビにあるとは限らない。
 テレビにとって変わるメディア、その最右翼はネットであろう。つまり、コンテンツの元となるタレントを多く抱えながらも、ネット展開に消極的な姿勢をとっていると、今後主流となるコンテンツビジネスに乗り遅れる可能性があるのだ。魅力的なソフトを所有しているとはいえ、それを出し惜しみしていると、他のプロダクションに市場を奪われてしまうかもしれない。
 テレビや雑誌などの既存メディアでは圧倒的なソフト力を持って流通側(テレビ局や出版社)に圧力をかけることは出来ても、ネット上ではそうはいかない。流通を通すことなく、各プロダクションが独自にコンテンツを配信できるのだから、その点では圧力をかけようがないのだ。ましてや、ジャニーズはすでに出遅れている(公式サイトでの動画公開やブログの活用など、すでに多くのプロダクションが行動を起こしている)。うかうかしていると、ネット上のコンテンツビジネスをそっくりさらわれてしまう可能性もある。
 また、ネット上のコンテンツビジネスは儲けが大きい。携帯電話向けの有料コンテンツなどは、タレントの日記を掲載するだけでも利益を得ることができる。また、タレントの画像や映像をネット上で配信し、対価をとるようなビジネスであれば、直接エンドユーザーと取引が行えるだけ、経費が少なくてすむだろう。
 これは、私の推測だが、おそらく、主に上記のような状況のもとで検討を重ねた結果、多少なりともWeb戦略を軟化させることになったのだろう。
 しかし、その戦略はまだまだ強硬といわざるを得ない。しかも、強硬であることにそれほど利益が見出せない。たしかに、画像や動画の公開による問題点もある。その一方で、利点もある。重要なのは、双方を天秤にかけて、どちらに傾くかではないだろうか。
 現に、多くのプロダクションやテレビ局、映画会社などが積極的なWeb戦略を展開している。それは、利点(利益)のほうが大きいと判断したからである。ジャニーズ事務所が問題点の方に固執するのも分かる。しかし、現状を見る限り、Web戦略について真剣に取り組んでいるとは思えない。ジャニーズショップが利益を上げているから、それを阻害する可能性のある画像公開等に二の足を踏んでいるだけなのではないか。一種の惰性で画像公開を避けているだけなのではないか。
 次回は、ジャニーズのWeb戦略の現状をもう少し詳細に見ながら、今後とるべき方向性、あるいは求められる方向性について、考えてみたいと思う。