『69 sixty nine』村上龍

(勝手に10段階評価。4が標準、10が最高)
2004年、妻夫木聡主演で映画化(DVD

 「これは楽しい小説である」という、あとがきの中の著者の言葉がこの作品をとても良く表していると思う。本当に、楽しい小説であった。
 全共闘運動が盛んだった1969年、九州の西の端にある、佐世保北高校3年生のケンは仲間たちと共に、高校をバリケード封鎖した。それは、大仰な政治的思想のためではなく、ただ単に好きな女の子を振り向かせるためだった。
 以前にも一度読んだのだが、なんとなく再読。村上龍の小説は他に読んだことがないが、とても読みやすい文章を書く作家だと思う。今売れている『半島を出よ』(幻冬舎)は上下巻の長い作品だが、一気に読ませる力を持っているそうだ。
 この作品で面白いと思ったのは、主人公ケンの一人称視点での語りを利用して、読者に嘘をつきまくるところだ。ケンは頭の良い少年で、自分の持っている知識を使って他人を煙に巻く技術を身につけている。すごく要領が良いのだが、相手を納得させるために何かと嘘をつく。そして、それは読者に対しても同じで、読んでいると、「というのは嘘で」という表現が何度も出てくる。その内に、これは嘘だろうなと予想がつくぐらいだ。これは、一人称での語りだからできることで、とても効果的で面白い。
 だが、文中の言葉が時々、四倍ぐらいの大きな活字になっているのが、どういう目的なのかよく分からない。強調したいことは分かるが、それだけなのだろうか。ライトノベルなどでは、擬音を大きな字で書いたりすることもあるが、この小説もライトノベル的な軽く、読みやすい作品であるという意志表示なのか。それにしても、2、3ページに一度の割合で出てくるので、何か深い意味があるのかとも思うのだが。
 全体的には、とても読みやすいし、笑いを中心にした楽しい小説であった。これを読んで、大人により管理された社会への反乱である、というような真面目な読み方をしようとするのは間違っている気がする。バーッと読んで、ワーッと楽しむ、愉快な青春小説。ただそれだけで十分なのだと思う。
 なお、余談だが、かなり前に読んだ、宗田理の『ぼくらの七日間戦争』(角川文庫)もやはり、バリケード封鎖をする子供たちの物語だった。あまり良く覚えていないので、ぱらぱらと見かえしたが、こちらは、全共闘世代を親に持つ子供たちが主人公なので、『69 sixty nine』の主人公の子供たちの時代である。『69 sixty nine』が高校生だったのに対し、『ぼくらの七日間戦争』は中学1年生となっている。せっかくなので、今度読み返してみようかと思う。