第9話「罪と罰」

 思ったほど暗くなることもなく、予想外に楽しめた。良い意味でも、悪い意味でも前向きな奈央子(篠原涼子)のおかげだろう。
 それにしても、沢木夫妻にはほとほと困る。両方ともが加害者であり、かつ被害者でもあるのだろうが、さすがに絵里子(ともさかりえ)の振る舞いは見ていて有り余るものがある。夫の翔一(加藤雅也)にも原因はあるのだが、絵里子は常に自分が被害者であり、弱者であるかのように振舞う。加藤(戸田菜穂)が立ち飲み屋で言ったように、「妻っていうのは立場が強い」のである。そのことを自覚した上で、なおかつ弱者のように振舞い、奈央子たちを振り回しているのだろう。彼女自身、妻になったら勝ちだというようなことを言っていたと思う。でも、結局何が目的なのだろうか。何か理由があるのだろうか。
 沢木夫妻の問題はなんとか片が付き、奈央子にとっては願ってもいない状況が訪れた。黒沢(赤西仁)から結婚を申し込まれたのだ。翔一から黒沢にコロっと移ってしまう奈央子もどうかと思うが(もともと翔一より黒沢の方が好きだったのか?)、なにはともあれ、明るい方向へ進みだしたのは良いことだ。奈央子と黒沢の掛け合いは見ていて楽しい。
 というのに、結末でまた絵里子が出てきてしまった。せっかく良いリズムに戻ったというのに、どうして流れを崩すような展開にするのだろうか。沢木夫妻の問題は、奈央子と黒沢を結婚させるために必要だったのかもしれないが、もうこれ以上必要ないのではないか。それとも、最終回に向けて欠かすことの出来ない内容なのだろうか。このドラマを見ていて、沢木夫妻が関わってくるたびに残念に思う。この二人がいなかったら、とても明るい、良いドラマだったのにという気持ちは捨てられない。
 ところで、立ち飲み屋で黒沢と加藤が話をするシーンがあった。奈央子が好きなことを加藤に言い当てられた黒沢は狼狽して、「何で、ですか?」と聞き返すと、加藤は「そんなの日本中の人が知ってるわ」と言った。これに対し黒沢は「うそぉ!?」と驚く場面である。
 これは確実に、ドラマであることを意識した会話だろう。「会社中の人」であれば、黒沢が驚くのも納得できるが、「日本中の人」と言われても、普通は本気にしない。「それはないでしょ」というようなツッコミをいれるのが通常だと思う。にもかかわらず、黒沢は大げさに驚いた。つまり、加藤の発言は、テレビによって「日本中の人」が黒沢の想いを知っているということを念頭に置いたものであったのだ。作中人物が、ドラマであることを知っているわけはないのだが、冒頭が奈央子の語りから始まることを考えると、もしや、などとも思える。まあ、実際には脚本家・中園ミホの遊びなのだろうが。