芦ヶ原伸之(NOB)氏の命日

 一年前の今日、パズル界の大御所、芦ヶ原伸之氏が亡くなった。
 芦ヶ原氏はNOBという愛称で知られる、パズル収集家であり、パズル作家であり、パズル研究家であり、パズルの宣教師であった。日本だけでなく、世界的に有名で、海外の雑誌に連載をしていたこともある。芦ヶ原氏の尽力により、日本と海外のパズル関係者が交流することができるようになった。氏の功績は多大なるものである。
 だが、日本では一部のパズル好きを除いて、その名を知る人は少ないかもしれない。しかし、氏の功績の一部を書くだけで、ほとんどの人が知らないうちに氏の影響を受けていることに気付くだろう。たとえば、多湖輝氏の『頭の体操』シリーズに関わっていたこと。テレビ番組「マジカル頭脳パワー!!」の監修をし、今では誰もが知っている「あるなしクイズ」を考案したこと。あるいは、社会現象ともなったルービックキューブを日本に紹介したこと。
 著書、訳書も多数であるし、生み出したパズルも数知れない。それほどの人物であるにもかかわらず、年齢や経歴などに関わらず、パズル好きであれば、誰でも同じよう接してくれていた。相手を驚かせ、楽しませる達人であった。
 そんな氏は、昨年アメリカからの帰国直後、自身のスタジオで急逝した。折りしもその日は、パズル懇話会の例会日。例会に来ない氏を心配して、会員がスタジオに行ったところ、すでに亡くなっていたという。死因は司法解剖によっても分からなかった。
 メーリングリストに流された訃報を読み、すぐには信じられなかったことを覚えている。告別式で、横たわる姿を見るまで、実感がわかなかった。
 七十にも満たない年齢で亡くなるとは、早すぎる。やり残したこともたくさんあっただろう。NOB氏のいなくなった穴を埋める人材はまだ育っていなかった。いや、その穴はあまりに大きすぎて、埋めることのできる人はいないだろう。だから、日本のパズル関係者が一丸となって、氏の意思を継いでいかなくてはならないと思う。
 来週、パズル懇話会主催で「NOBさんを偲ぶ会」が行われる。そして、夫人の芦ヶ原孝子氏は、10年後をめどに、NOB氏の世界第三位とも言われるコレクションを展示する博物館を創りたいと考えているそうだ。新しい世代のパズル好きのためにも、ぜひ実現してほしいと思う。