狼たちの午後

狼たちの午後
ワーナー・ホーム・ビデオ (2000/04/21)
通常9〜14日以内に発送します。
原題:Dog Day Afternoon
監督:シドニー・ルメット
出演:アル・パチーノジョン・カザールチャールズ・ダーニング、ほか
1975年、アメリカ、全125分
1975年、アカデミー賞脚本賞、LA批評家協会賞作品賞・男優賞・監督賞、英国アカデミー賞主演男優賞・編集賞受賞
2005/06/02、NHK衛星第2「衛星映画劇場」にて放映
DVDに保存

 1972年8月22日、ニューヨークは「Dog Day」(暑い日)だった。その午後、チェイス・マンハッタン銀行支店に3人の強盗が押し入った。彼らの計画は、メンバーの一人であるロビーが怖気づいて仲間を抜けたところから、徐々に崩れ始める。銀行の金庫には1100ドルしかなく、さらに、警察が完全に包囲したことを告げる電話がかかってきた。250人以上の大包囲網の中、9人の銀行員を人質に、2人の強盗は焦りつつも打開策を考えていくのだが……。
 シュールな笑いと救われない結末が魅力的だ。特に前半、強盗の2人が人質たちと打ち解けてゆくところには、細かい笑いが詰め込まれている。アメリカの風習や地理などを知らないと良く分からない部分もあるので、私自身埋め込まれた笑いにすべて気付けているとは思えないが、その分かりにくさゆえにマニアックな雰囲気があるのも良い。
 笑える要素はたくさんあるのだが、2人の強盗たちはほとんど笑わない。その真面目腐った表情が、緊張感を醸しだしている。一方、人質の側にはあまり緊迫感がない。その対照的な関係が皮肉っぽさを助長している。大笑いではなく、クスクスと含み笑いを誘われてしまう。
 だが、中盤以降笑える要素が少なくなり、徐々に真面目で重い内容になってくる。そのあたりから、多少冗長に感じられるのが残念ではある。警察やFBIが大掛かりな配備をしているにもかかわらず、大きな展開はなく、不思議なまでにゆったりとした空気が流れているのだ。それは意図的なものであって、皮肉的な側面を強調しているのだとは思うが、ゆったりしすぎているように感じてしまうのである。
 そして、結末はあまりにあっけない。皮肉的な笑いはあるものの、全体的に単調に、暗いトーンで進むストーリーは、結末の事件さえも、静かに飲み込んでしまう。人質たちは何事もなかったかのように引き揚げて行くのであった。
 泣ける映画ではないが、かといって素直に笑える映画でもない。大きく盛り上がることもなく、緊張感はあるものの、スリルを感じることはない。これといった見所もないのだが、なぜか魅力的な映画である。視聴者は、登場人物たちに感情移入することもなく、まるで観察者であるかのように、冷静に見つめていられる。淡々と起こる、非日常的な出来事を、そのまま受け止め、受け流す。その不思議な感覚がこの映画の魅力なのかもしれない。
 などと書いてみたものの、この映画は今の段階ではまだ完全に理解できていないような気がする。映画を理解する必要があるのか、という疑問もあるが、また時間を置いて観てみようと思う。新しい感想を抱くかもしれない。そう思わせる力がこの映画にはある。