『新装版 虚無への供物(下)』中井英夫

(勝手に10段階評価。4が標準、10が最高)

 やはり感想が上手くまとまらないので、少しだけにしておく。
 饒舌な語りで、難解な内容であっても、スラスラと読めてしまう。推理合戦の果てにもたらされたのは、切ない結末。現実は推理小説のように面白くはないのだ。だが、この作品に流れる非現実的な雰囲気は、いかにも小説的である。都内の、見知った地名が出てくるにもかかわらず、まるでパラレルワールドのような、空想めいた景色が漂う。そんな小説の中で語られるのは、やはり現実ではない。ただ、推理小説的でないというだけだ。小説と現実の乖離、推理小説と現実のより大きな乖離。しかし、小説とはそういうものだ。小説が現実的である必要はない。推理小説にリアリティがなくたって良い。
 この作品は、推理小説が非現実的であることを描いたわけではないと思う。推理小説の中で行われる謎解きが確実なものではないということを描いたのだろう。作者によって生み出された謎の真相は、読者に分からないばかりでなく、作者自身にも分からないということではないか。そのことを告げた作品なのかもしれない。
 自分でも読みきれていないので(どんな小説でも、完全に読むということは不可能だと思うが)、感想もまとまりがないし、誤った読み方かもしれない。なにか指摘や意見があったら、コメントやトラックバックをお願いしたいと思う。