『新版 ミステリーを書いてみませんか』斎藤栄

(勝手に10段階評価。4が標準、10が最高)

 1963年に「機密」で宝石中篇賞、1966年に「殺人の棋譜」で乱歩賞を受賞し、その後もタロット日美子シリーズなどで支持を得ている斎藤栄。本書は彼が書いたミステリー作法の指南書である。ミステリーそのものの定義や歴史から始まり、発想法、取材法、メモの取り方、トリック論など、具体的なテクニックが分かりやすく丁寧にまとめられている。また、著者のヒット作の執筆裏話なども織り込まれていて、作家志望者以外でも興味深く楽しめる一冊と言えよう。
 全体的に、作品ができるまでの過程が大変丁寧に書かれているので、とても面白い。特に題名の付け方に関する話は大変興味深かった。また、様式美を重んじるという日本の伝統的な考え方とミステリーとの関係についての指摘も大いに納得させられた。
 だが、著者が生み出したという「ストリック理論」については初耳である。ストーリー自体がトリックになっていて、ストーリーとトリックを分割できないような小説を「ストリック」と名付け、ミステリーは「ストリック」を重視すべきだというような意見だ。「この意見は私だけが提唱したもので、他の人は賛成していない」と書かれているが、私は妥当性のある意見だと思う。ただ、「ストリック」というのは「叙述トリック」とほとんど同じようなので、現代では格別新鮮な意見とは思えない。もっとも、これが提唱されたのは1968年に講談社より刊行された『虹の幻影』のあとがきの中だそうなので、当時は新鮮だったのかもしれない。
 作家志望者向けに書かれているというよりは、ミステリーを愛する人全般に向けてかかれているような気がする。それは、タイトルにも表れているのではないだろうか。『ミステリーを書いてみませんか』というのは、今までミステリーを書いたことのない人への呼びかけであろう。読むだけで満足している人に対して、書くのはもっと楽しいですよと声をかけてくれているのだ。事実、本書を読んでいるうちに、自分にも書けそうな気がしてくる。現実にはそんなに簡単なものではなかろうが。