『嘘猫』浅暮三文

(勝手に10段階評価。4が標準、10が最高)

 1998年に『ダブ(エ)ストン街道』で第8回メフィスト賞を受賞し、デビューした著者の自伝的青春小説。デビュー前、大阪から上京し、東京の広告代理店で働き始めたアサグレ青年は、六畳一間の安下宿で一匹の野良猫と出会う。それは、愉快だけど時に切なく、そして不思議な共同生活の始まりだった。
 まず、表紙が良い。北谷しげひさによる猫のイラストが独特の雰囲気を醸しだしている。作品の内容に非常にあったイラストだと思う。
 内容はといえば、まず猫好きにはたまらない。猫を擬人化した表現がとても上手く、猫を飼っている人は大きくうなずくこと請け合いだ。一方で、猫の死も隠すことなく書かれており、綺麗事ばかりのつまらない作品とは一線を画している。一匹の猫が死んだ時の、作者の気持ち、悲しいの一言では言い表せないような気持ちがページから染み出してくるようで、こちらまで切なくなってしまう。しかし、作品全体としては、ユーモラスな雰囲気なので、とても気軽に楽しめる傑作と言えるだろう。
 自伝的小説なので、ほとんどの部分は作者の体験に基づいているのだろうが、本当に?と思ってしまう箇所も間々ある。そして、そのような部分がまた面白い。自伝エッセイではなく自伝的小説たるゆえんだと思う。
 幕の引き方も鮮やかで、読み終えて幸せな気分になるだけでなく、言いようのない哀愁が心に残り、良い本を読んだという充足感を与えてくれる。200ページ程度の短い作品であるが、中身は濃い作品なので、いろんな人に勧たいし、プレゼントとして贈りたい。そんな一冊だった。