『ロートレック荘事件』筒井康隆

(勝手に10段階評価。4が標準、10が最高)

 ある夏の終わり、ロートレックの作品に彩られた、瀟洒な洋館に青年たちと美しい娘たちが集まり、優雅なバカンスが始まった。しかし、そのバカンスは、二発の銃声によって打ち破られる。厳重な警戒にもかかわらず、次から次に殺されていく美女たち。果たして犯人は見つかるのか?そして、読者はトリックを見破ることができるか?奇才が紡ぎだした前人未踏のメタミステリがここに幕を開ける。
 大変な労作と言えよう。内容について述べることは出来ないが、とにかく緻密に構成された作品である。伏線とトリックが随所に仕掛けられており、最後の謎解きを読む際には、いちいち該当ページを確認したくなることだろう。
 そのように、とても丁寧に作られた労作であることは確かなのだが、ミステリとしての面白さという点では多少劣るように感じる。それは、作中に仕掛けられたトリックがアンフェアだという理由ではなく、犯人が明かされた時の驚きが小粒であったからだ。謎解き場面で指摘されたページを確認する時には驚きを感じるし、思わず笑みがこぼれてしまうこともある。だが、それは一種の確認作業のようで、小説を楽しむということとは少し異なる気がする。
 そのため、作品自体をもう少し短くしても良かったのではないかと思ってしまう。謎解きが長く、途中で確認作業に飽きてしまうのだ。謎解き部分はそれ以前の部分と照らし合わせてみることで魅力を放つのだが、照らし合わせずに読むと、それほど面白くないのである。
 つまり、犯人が明かされ、ある程度作中の仕掛けを確認してしまうと、その時点で作品としての面白さが終わってしまうということだ。だから、謎解き部の後半はあまり楽しめなくなると言って良いだろう。
 新鮮なミステリとしての魅力は十分に備えているので、一読の価値のある作品であることには違いない。しかし、誰にでも勧めたくなるような作品でもない。物語を楽しむというよりは、技巧を楽しむ作品なのだろう。その技巧に関しては、最大限の賛辞を贈りたい。
 なお、作中で言及されるロートレックの作品が挿絵のように挿入されているが、それらの作品がストーリーに連関しているかというと、そうとも言えないようだ。ロートレックの作品が挿入されているのは、簡単な画集としての魅力を加えるということなのだろうか。ロートレックの絵が好きな人は、ぱらぱらとめくってみても楽しめるかもしれない。