美しき容疑者/海に消えた真実

原題:And the Sea Will Tell
監督:トミー・リー・ウォーレス
出演:リチャード・クレンナ、レイチェル・ウォード、ハート・ボックナー、ほか
1991年、アメリカのテレビ用映画、全185分
原作:『And the Sea Will Tell』Vincent Bugliosi
2005/05/30,31、テレビ東京午後のロードショー」にて放映
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 ハワイ南方の無人島で二つのカップルが出会った。方や、カリフォルニア在住の裕福夫妻、マックとマフのグラハム夫妻。もう一組は、大麻に溺れ、身元も分からぬ二人の若者バックとジェニファー。そして、1974年、グラハム夫妻のヨット、シー・ウィンド号に乗ってハワイに着いたのは、バックとジェニファーだった。グラハム夫妻はボートが転覆して亡くなったと証言する二人だが、殺人容疑で逮捕されてしまう。しかし、証拠もなく立証されることはなかった。6年後、マフの白骨死体が発見され……。
 前後編合わせて3時間というのは長い方だが、サスペンス性に満ちていて、あっという間に見終わってしまう。物語の中心は、ジェニファーが無実を勝ち取ることができるかであり、とくに後編はリーガルサスペンスとしての魅力たっぷりで、かなりのスリルを味わえる。
 彼女や法廷での証人たちの証言をもとに、無人島での生活が頻繁に挿入されるので、多少複雑に感じられる。しかし、事件の起きた現場である、無人島で何が起こっていたのかが徐々に明らかになっていくことで、スリルを感じさせる演出なのだろうし、成功していると思う。
 この映画における一番の魅力は、事件の真実が明らかにならないところであろう。舞台である無人島には4人しかいなかった。そのうちの2人が行方不明(後に1人は白骨死体が発見される)になり、後の2人が容疑者となる。その島で起こったことは、2人の容疑者しか知らない。2人(特にジェニファー)の証言が事実かどうかは確かめる余地がないし、事実だとしても本当に誰が犯人なのか分からない。まさに海に消えた真実というわけだ。
 つまり、このドラマは事実に基づいたエンターテイメントであるとともに、視聴者への挑戦なのである。基になった事件の真相が明らかにされたのかは分からないが、少なくとも本作においては真相は不明のままである。我々、視聴者は与えられた証言をもとにして、犯人を推理しなくてはいけない。その答えにたどり着くことができるのかも分からない。犯人を推理するために必要な情報がすべて提示されているかも疑問である。なにせ、その情報を語るのが、容疑者であるジェニファーなのだから。
 原題は「And the Sea Will Tell」。しかし、海は語らない。海に消えた真実を知ることは出来ないのだ。分からないから面白い。なんでもかんでも解決をつけてしまう、最近の映画に食傷気味の方にはオススメの作品と言えるだろう。