レネットとミラベル四つの冒険

原題:Quatre Aventures de Reinette et Mirablle
監督:エリック・ロメール
出演:ジョエル・ミケル、ジェシカ・フォルド、フィリップ・ローデンバック、ほか
1986年、フランス、全95分
2005/06/04、TVK「Cinem@7」にて放映
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 田舎町で出会い、共同生活をするようになった2人の少女が、日常生活の中で体験するささいな出来事を4つのエピソードで描いた作品。夜明け前に一瞬訪れる、無音の世界「青い時間」を体験しようとする2人を描いた「青い時間」。カフェでの理不尽なボーイとのやりとりをユーモラスに描いた「カフェのボーイ」。スーパーで万引きをしている女性に出会った体験と、駅で小銭をせびる女性とのやりとりなどを重ねて描いた「物乞い、万引、詐欺師の女」。画廊に絵を買い取らせるまでのやりとりを描いた「絵の販売」。
 不思議な映画だった。冒険とは言うものの、どれも日常に潜むささいな出来事で、何か大きな山場があるわけでもない。にもかかわらず、観ていてどんどん惹きこまれ、優しく、幸福な気持ちになれる。とても心地よい、魅力溢れる作品だと思う。
 主人公の2人の少女は、対照的な性格で、一つのことに対して、全く違った考えをする様子が面白く描かれている。これは、特に「物乞い、万引、詐欺師の女」の中に表れている。
 そのエピソードも良いが、個人的には「カフェのボーイ」が一番好きだ。世の中に理不尽なことはたくさんある。どこにでもあるような、ありふれた出来事さえ、見方によっては冒険なのだ。だから、理不尽で辛い出来事も、相手から一方的に攻撃されているのではなく、自分から冒険に繰り出しているのだと考えれば良い。そうすれば、気持ちも少しは上向きになり、がんばれるのではないだろうか。
 ありふれた日常というのは、現実にはありふれたものなどではなく、たくさんの冒険によって構成された、非凡なものなのである。日常というのは、非日常の上に成り立っているのかもしれない。ミステリの世界でも、北村薫の作品を中心として、「日常の謎」と呼ばれる作品群がある。日常に満ち溢れている、冒険や謎を見つけることができれば、毎日が生命力に満ちた、楽しい日々になるのだろう。実際、この映画の主人公たちには、みずみずしい活力が満ち溢れている。
 そんな、堅苦しいことを考えずとも、ぼんやり観ているだけで、幸せな気持ちになれる、美しく優しい映画だった。どちらかというと女性に好まれる作品かもしれないが、性別に関係なく、誰にでもオススメできる傑作であると思う。