ザ・コンテンダー

原題:The Contender
監督:ロッド・ルーリー
出演:ジョーン・アレンゲイリー・オールドマンジェフ・ブリッジス、ほか
2000年、アメリカ、全127分
2005/05/31、日本テレビ「月曜映画」にて放映

 副大統領の急死に伴い、アメリカ史上初の女性副大統領候補として指名を受けたハンソン上院議員。だが、それを阻止しようとするラニヨン議員によって、学生時代のセックス・スキャンダルを暴かれてしまう。彼女は、その追及に取り合わない姿勢を貫くのだが……。
 なかなか良い映画だった。この映画は、かなり裏のある映画だと思う。軽く見れば、女性が副大統領になるまでを描いた、女性の権利獲得ストーリーのように思ってしまう。しかし、それは間違っているのではないだろうか。製作者の意図は、全く正反対であるような気がする。あまりに巧妙に仕掛けられているため、気を抜いていると、騙されてしまうのだ。実際、ネット上の感想をざっと見た限りでは、上記のようなテーマであると書かれているものが多い。
(ここからネタバレ)
 おそらくハンソンは潔白ではないのだと思う。作中では、スキャンダルが嘘なのか、それとも真実であるのかについて、明確には語られない。ハンソンがスキャンダルに対して口を開かない理由は、彼女いわく、個人的なことに答える必要はないから、事実であろうとなかろうと、答えないというものである。しかし、これは彼女の詭弁であろう。証拠写真や証人まで用意され、普通に戦うことはできないと悟った彼女の政治的戦略なのである。
 セックス・スキャンダルが事実であり、証拠も十分に押さえられている以上、それを否定することで、逆に不利になってしまう可能性が高い。真実を述べるという誓いをしているにもかかわらず、嘘を言ってしまうと、それこそ副大統領どころか、政治家としての生命も危ういだろう。かといって、当然肯定はできない。だから、ノーコメントを貫いたのだ。
 最終的に、大統領の力で、彼女は副大統領になれるのだが、おそらく、大統領も、彼女のスキャンダルが真実であるということに気付いていたのだと思う。真実のスキャンダルを華麗に消し去った彼女の、政治家としての力量を評価して、副大統領にしたのだろう。
(ネタバレここまで)
 この映画において、男女平等とか、女性の権利獲得とか、そういうフェミニズム的な要素は、政治のためのツールとして描かれるのである。大統領は、女性を副大統領にすることで、自身の人気を確立させる。ハンソン議員は、女性に対する差別的な考えを逆手にとって、自身のスキャンダルをもみ消そうとする。
 この映画はあくまでも、各人の思惑が交差する政治の世界での巧妙な駆け引きを描いた作品なのである。だから、テーマが「女性の社会的地位の確立」であるとか、「自分の信念を貫くことの尊さ」である、というような見方は間違っているのではないかと思う。一見すると、そのようにも見えるが、全ては観客に向けて仕掛けられた罠なのだ。その裏に、実は、フェミニズム批判のテーマさえ隠し持っているような気さえしてならない。
 タイトルでもあるcontenderというのは、、戦う人とか、意見を主張する人とか、論争する人とかという意味であり、主にハンソンのことを指しているように思えるが、それだけではなく、挑戦者というような意味であって、観客に挑戦する製作者のことなのではないだろうか。ミステリ小説にある「読者への挑戦状」のように「観客への挑戦」としての映画なのであろう。
 余談だが、前半、ボーリングのボールの曲がり方で、右よりとか左よりという、政治家の姿勢を表現したのは巧いと思った。