『ミステリーズ! Vol.10』

(勝手に10段階評価。4が標準、10が最高)

 この『ミステリーズ!』は、今発行されているミステリ系文芸誌の中でも一番のお気に入りだ。とにかく、小説で埋め尽くされていて読み応え十分である。それでいて、読み疲れないようにエッセイやコミックなども挿入されている。そして、なんといっても企画が多いのが嬉しい。創刊号から犯人当てが掲載され(残念ながら終わってしまったが)、リレー小説、短篇競作と注目企画が盛りだくさんである。
 そんな中で、今号、北村薫の『ニッポン硬貨の謎』が最終回を迎えた。この作品は、発見されたクイーンの未発表原稿を北村薫が翻訳したという設定の小説だ。凝った訳注が挿入されていて、とても丁寧に創られている。知らなければ、本当に翻訳なのかと思ってしまうだろう。ちなみに、犯人の名前について作中では細かく触れられていないが、なんとも上手いネーミングである。
 短篇競作の今号の執筆者は、評論家の佳多山大地。初のミステリ創作だそうだが、しっかりと書けている。なんとなく薀蓄臭さを感じてしまうのは仕方ないだろう。
 あとは、はやみねかおるの巻頭エッセイが面白かった。現代の児童文学作家の大半は、兼業作家だそうだが、彼は、そういう厳しい状況の中で、児童文学専門ではないにせよ、専業作家として活躍してる稀有な作家である。そういう作家が生まれる過程が伝わってきて興味深い。子供たちに話すネタが尽きて、自分で創るようになり、そして作家への道を進んでいったそうだ。子供に直に話すつもりで書いているから、子供の心をつかむ(大人の心も)作品が生まれるのだろう。