第3話「遊べ!受験はスポーツだ!」

 桜木(阿部寛)は雰囲気こそウサン臭いものの、やっていることは他の登場人物の誰よりもまともだ。特に、他の教員の行動の幼稚っぽさといったら……。それゆえの龍山なのだろう。
 桜木率いる「特進クラス」には、新たに水野(長澤まさみ)が加わり、計五人となった。その五人の中でリーダー的な存在になっているのが、矢島(山下智久)である。彼は、桜木に300万円で買われたわけだが、彼をクラスに引き込んだのは、300万以上の価値があった。彼は途中であきらめかけた、緒方(小池徹平)や香坂(新垣結衣)を繋ぎとめ、彼らのヤル気を出すきっかけとなったのである。おそらく、桜木が矢島をあそこまでして引き入れたのは、彼の性格を見込んでのことだったのだろう。
 桜木による、勉強はスポーツだという意見は理解できる。秀明館高校の教員である山本(矢沢心)のカレシ候補の一人、東大卒の田中(村上大樹)が反復練習によってボーリングを上達させていたのは、勉強においても反復練習が大切であるということを表していたのだろう。事実、スポーツも勉強も反復が必要であるという点では似ている。
 ただ、「数学は瞬間的に、自動的に、機械的に解け」という桜木の教えは納得しがたい。基礎段階での限定的な場合のことであるならば、賛成できるが、これが東大の問題となるとそうはいかないだろう。東大入試の合格点が低いのは、公式を覚えているだけで反射的に解けるような問題が出題されないからである。東大入試に必要なのは、公式を公式として覚えるのではなく、公式の成立過程を理解し、自分なりに咀嚼することではないだろうか。だから、公式を覚えて機械的に解くことは、初期段階おいては必要なことだろうが、今後もこのやり方で東大に合格できるとは思えない。また新しい勉強法が出てくることを期待する。
 それにしても、あの数学のテストはさすがに無理だろう。高校数学の問題というから、高1程度なのかと思っていたら、高3レベルの問題だった。しかも、対数・三角関数微積分・数列・行列と、数III数Cの範囲まで入っているようだ。100問程度あったようだが、それを20分で解くというのは、東大合格者でも無理だと思う。100問だとすると、一問12秒で解かなくてはいけない。小中学校レベルの単純な計算問題ならまだしも、高校最高レベルの問題をそんなスピードで解ける人がいたら、ギネスものだろう。
 さらに、机の上には、問題用紙のみで、計算用紙が一枚もない。その問題用紙も、各問の間は1、2行しかなく、解答を書き込んだらそれだけで埋まってしまう。どう考えても暗算で解けるような問題ではないのに、計算スペースが全くないというのは理解できない。あのレベルの問題であれば、計算用紙を別に用意するか、あるいは、問題の間のスペースを十分にとるのが当然だろう。時間を考えると暗算でやるしかないから、計算スペースなど必要ないということかもしれないが、おそらく、プロの数学者でもあの問題を暗算で解ける人はいないだろうし、20分で100点をとれる人はいないだろう。
 あのテストで半分も取っていれば、その時点で数学の学力は相当のレベルに達していると思われる。小中学レベルで四苦八苦していた人間が、一気にそのレベルに達するとは思えない。あの中には、三角関数積分する問題まであったが、あれを解くためには、三角比・三角関数微分積分を理解していなくてはいけないし、それを理解して解けるようになるには、式の計算や方程式、1・2次関数などのより基本的な部分も押さえてなくてはいけない。5日程度では絶対に不可能だ。
 ああいう問題を出題しておきながら、教頭を中心とする反桜木の教員たちは、結果を不安げに待っていたが、はじめからあの問題が解けるわけがないというのが分からないのだろうか。万が一にも、などという可能性は皆無だ。採点の結果は描かれなかったが、もし、1問でも正解していたとしたら、それは本当に奇跡だろうと思う。