総評
気合を入れて感想を書いていた春期に比べ、夏期は尻つぼみになってしまった。感想は書けていないが、録画した分に関しては全て視聴したので、春期同様に総評をまとめておこうと思う。
視聴率ランキング
ドラマ視聴率 ドラマサイトの「ドラマ視聴率 2005年7月期 」を参考に、平均視聴率の高い順に並べてみた。なお、初回視聴率・最終回視聴率の後のカッコ内はそれぞれの場合の順位。
順位 | タイトル | 平均 | 初回 | 最終回 |
1 | 電車男 | 21.04 | 18.3(2) | 25.5(1) |
2 | 女王の教室 | 16.94 | 14.4(8) | 25.3(2) |
3 | スローダンス | 16.89 | 22.5(1) | 17.8(4) |
4 | ドラゴン桜 | 16.41 | 17.5(5) | 20.3(3) |
5 | 菊次郎とさき | 14.94 | 16.1(6) | 15.7(6) |
6 | 女系家族 | 13.85 | 18.1(3) | 16.5(5) |
7 | 海猿 | 13.12 | 17.8(4) | 13.8(8) |
8 | 新・科捜研の女 | 12.75 | 13.1(10) | 15.3(7) |
9 | がんばっていきまっしょい | 12.41 | 12.6(12) | 13.0(9) |
10 | 幸せになりたい! | 11.75 | 13.0(11) | 11.4(11) |
11 | いま、会いにゆきます | 10.97 | 15.2(7) | 11.6(10) |
12 | 刑事部屋 | 10.34 | 14.3(9) | 10.2(12) |
13 | はるか17 | 8.83 | 12.2(13) | 8.4(13) |
14 | おとなの夏休み | 7.99 | 11.2(14) | 6.9(14) |
「電車男」が安定した支持を得て高視聴率を持続。最終回では25%を超えた。
それに肉薄する視聴率を獲得したのは「女王の教室」だ。初回8位から最終回・平均では2位に躍進している。刺激的な内容が話題となり、注目を集めた結果だろう。
「ドラゴン桜」も上昇し、最終回では20%の視聴率を獲得している。最終回直前の視聴率14.5%から急上昇したのはなぜだろうか。東大に合格するかだけはチェックしたかった人が多かったのかもしれない。
また、「がんばっていきまっしょい」も着実に視聴率を伸ばしたようだ。あのキャストで初回が12位というのは意外だが、突然のキャスト交代はどう影響したのだろうか。単純にキャスト交代によって視聴率が伸びたとは言い難い。
さて、一方の凋落組は「スローダンス」「女系家族」「海猿」「いま、会いにゆきます」「刑事部屋」といったところか。「スローダンス」は上位に位置しているが、初回と最終回の差が5%近い。月9でなければ、平均3位の座は危うかっただろう。
「女系家族」「海猿」「いま、会いにゆきます」は中盤の視聴者離れが大きく響いたようだ。連ドラとして長期間放送する作品ではなかったのかもしれない。引き伸ばした結果、薄味になってしまったようである。
「刑事部屋」は新鮮さが裏目に出てしまった感じで、初回を除いては全体的に低調であった。
大きな話題にはならなかったものの安定した視聴率を獲得しているのは、「菊次郎とさき」「新・科捜研の女」「幸せになりたい!」の3作。前者二つは過去の作品からの固定層をしっかりと取り込んだのであろう。また、3作とも地味ながらも丁寧な製作姿勢に安心して視聴できたという傾向もありそうだ。
「はるか17」「おとなの夏休み」は安定した低視聴率であった。順位に変化はないが、視聴率はどちらも下降している。少数のファンにも愛想をつかされた形だ。「はるか17」に関しては深夜ドラマだからという言い訳も出来ようが、寺島しのぶ初主演ドラマとしてそれなりに注目され、日本テレビとしても力を入れていたはずの「おとなの夏休み」の凋落ぶりには目も当てられない。
第2回偵乱密泡華ドラマ大賞
続いては、私の個人的な意見によるランキングを発表しようと思う。今回のノミネート作は私が視聴していた「スローダンス」(途中でリタイア)「がんばっていきまっしょい」「幸せになりたい!」「女系家族」「ドラゴン桜」「はるか17」「女王の教室」「いま、会いにゆきます」の計8作品である。
ということで、早速発表。
大賞 | 該当作なし |
金賞 | 女王の教室 |
銀賞 | 女系家族 |
はるか17 | |
銅賞 | いま、会いにゆきます |
次点 | ドラゴン桜 |
選外 | 幸せになりたい! |
がんばっていきまっしょい | |
スローダンス |
「女王の教室」は注目を集め、新鮮な作品ではあったが、評価は二分するだろうと思う。各種報道などの情報によれば、序盤は否定的な意見が多かったようだが、最終的には肯定的な意見が増えたそうだ。しかし、結末が「真矢=良い教師」であったからといって、単純に肯定派に回るというのは浅薄過ぎる。彼女が信念を持っており、生徒を育てることに心血を注いでいたからといって、彼女の行動が正しいと断定することはできないからだ。たとえば、新興宗教団体オウム真理教の信者たちは、信念を持って、自分が正しいと思い、サリン事件などを起こした。そのように、誤った信念のもとに、自信を持って行動する人間というのは、実は計り知れない「悪」である可能性が非常に高いのである。
だから、「女王の教室」において問題にすべきは、真矢が生徒のことを想っているかどうかではなく、彼女が行った教育が正しいかどうかという点なのではないだろうか。それを簡単に判断することは難しい。しかし、このドラマにおいては、クラス全員が真矢の思い通りに成長してしまうという、非常にご都合主義的な結末によって、真矢の行動が正当化されてしまったのである。これはドラマ制作者による悪質な欺瞞であると共に、逃げでもあろう。真矢という特異な教育者を真剣に描こうとしたら、このような結末は生まれなかったはずだ。
私は、第2話の感想の中で、「彼女がわざと冷酷な教師を演じることで、悪意に満ちた社会に負けない生徒を育てようとか、自分への反発を起こさせることで、強固な友人関係を作らせたり、強靭な精神を鍛えさせようということが目的だとすると、あまり面白くない。形は違えど、結局は生徒思いの教師であるという点で、凡庸な学園ドラマと同じレベルに落ち着いてしまうからである。」と書いた。結果的にはこの通りの結末になってしまったわけである。
このような状況を考えて、「女王の教室」を大賞とすることは避けた。しかし、ありきたりな学園ドラマとは一線を画した設定で、学園ドラマの発展に一脈の光を与えたという点、および、良い意味でも悪い意味でも、ドラマに対して多くの人がそれぞれの意見を持ち、真剣に作品を観た上で、互いに意見を戦わせるという状況を生み出した点によって、金賞とすることにした。同時に、主演である天海祐希や志田未来ら子役たちの演技にも賞賛の言葉を投げかけたい。
歴史に残るようなドラマになり得る可能性を十分に秘めていただけに、安易な結末を残念に思うが、このドラマを礎にしてより良い作品が生まれるという期待を抱かせてくれたことに感謝したい。
長くなってしまったが、銀賞の「女系家族」に移ろう。期待通りの作品であったが、中盤の展開が冗長に感じられてしまったのが残念である。全11回の連続ドラマにしたことに無理があったように思う。しかし、終盤の息もつかせぬ展開は見事であった。中盤の冗長さの中に、終盤に向けた伏線が仕組まれていれば納得もいくが、小さな伏線ばかりで、結局薄く引き延ばしてしまった印象が残る。ただし、出演者は適役ぞろいで、特に宇市役の橋爪功の演技には舌を巻いた。老獪なねずみ小僧のようで、コミカルとシニカルの両方を具有し、体現していたといって良いと思う。特に最終回での狂気といっても良い程の演技はなんとも素晴らしかった。
同じく銀賞となった「はるか17」は、視聴率こそ振るわなかったものの、深夜ドラマゆえの自由奔放さが魅力的だった。同時期に放送中の他局のドラマのパロディなども無数に織り込まれており、遠慮がないという感じで、とにかく楽しい作品だった。キャストの顔ぶれも魅力的で、ストーリーなどなくても十分に面白かっただろうと思う。残念なのはコメディーに徹しきれなかった点である。はるか(平山あや)の心の葛藤が描かれたことで、シリアスな場面が多分に含まれてしまい、中途半端な印象を残した。シリアスなシーンを挿入すること自体は悪くないのだが、それが笑いに昇華されていないために、浮いてしまったようである。また、結末の酷さはいかんともしがたい。全体的に脚本が大味な傾向はあったが、あの結末は酷すぎる。もう少ししっかりと終わらせてほしかった。脚本に関して言えば、終盤に至ってどんでん返しが繰り返されたのは、良い意味で期待を裏切ってくれて楽しかった。それを考えると、大筋のストーリーはしっかりと作られていたようである。おそらく、細部に小ネタを盛り込みすぎたために、収拾がつかなくなってしまった部分もあるのだろうと思う。
続いては銅賞の「いま、会いにゆきます」である。意外と視聴率が振るわなかったことに驚いたが、作品としては悪くなかった。ゆったりとした流れのドラマで、映像も美しく、そこに登場する人々の心も美しかった。だが、「女系家族」同様、中盤のだれが痛かった。ゆったりとした心地よさが、緩慢な飽きへと変化してしまい、正直なところ、早送りしたい気分を抱いたのである。にもかかわらず、銅賞としたのは、最終回のおかげだ。というよりも、原作のおかげなのかもしれない。最終回において、蘇りの真実とタイトルの意味が明かされた時には作者の周到さに感動した。全てが納得いく結末で、非常に後味の良い終わり方をもたらしてくれたのである。あの結末の謎解きは、作品の魅力を倍増させるために十分な力を備えている。純愛ものとして一緒くたにされている「世界の中心で、愛をさけぶ」とのレベルの違いを見せつけてくれた。
「ドラゴン桜」は次点となってしまったが、ドラマとしては十分に面白い作品だった。生徒たちの抱える悩みに新鮮味がなく、受験勉強ドラマになってしまった感じがある。キャスト自体は魅力的だったので、もったいない。特に、桜木役の阿部寛を生かしきれていない感じがした。そもそも、桜木が主人公ではあるものの、それほど見せ場が多いわけでもないので、仕方がないかもしれないが。また、紹介された東大受験対策勉強も、思ったより真面目というか、ありきたりなものだったのも残念である。最終的に半分が受験成功という結末は無難なところを押さえている一方で、面白味にかけた感もあるが、それはどうしようもないことだと思う。なお、矢島役の山下智久による挿入歌「カラフル」は予想通り、あまり話題にならなかったが、KAT-TUNの亀梨和也との限定ユニット「修二と彰」のシングルCD「青春アミーゴ」の中に、亀梨の「絆」と共に収録されるとのことである。
では、選外3作に関して簡単に書こう。
まずは、「幸せになりたい!」。脚本にブレもなく、安定したドラマだったが、それゆえに小さくまとまってしまった感じがある。ドラマ制作の現場を舞台にしている割には、パロディも少なく、シリアス路線を目指したのだろうか。だが、出来たドラマはコメディ2割、シリアス3割、ムダ5割のようで、困ったものだ。子役二人の演技の上手さが目を惹いたが、全体としては凡作の域を出ていない。
「がんばっていきまっしょい」も悪くはないが、新鮮味もなく、凡庸な学園ドラマとしか言いようがない。2005年に放送するのであれば、それなりの味付けをすべきだろう。旧態依然とした青春学園ドラマを見せられても、心は動かない。人気のあるキャストを揃えたのは良いが、登場人物の性格付けが定まっていないようで、ブレが激しかったような気がする。特に主人公である悦子(鈴木杏)には全く感情移入できない。彼女がキャプテンとしての信頼を得ているというのが不思議なくらいだ。見所は、飲酒問題によるキャスト交代ぐらいという皮肉な結果になってしまったようだ。
最後は「スローダンス」である。第3話で見限ったので、ちゃんとした感想は書けないが、その後一気に傑作になったなどという期待は決して出来ないだろうから、駄作ということで良かろう。久しぶりに、自信を持って駄作と言える作品が生まれたような気がする。第3話の感想に「妻夫木聡・藤木直人・田中圭らのいい男と、深津絵里・広末涼子・小林麻央らのいい女が出てくるだけで、他がない。いい男といい女を出しただけで力尽きている感じがする。」と書いたが、それ以上言うことはない。
まとめ
今期は「女王の教室」が大きな話題となり、ドラマの持つ影響力の大きさを痛感した。その影響力が良い方向に働けば良いが、常にそうなるとは言いきれない。ドラマの影響力を意識しつつ、懐疑的な目で見ることも必要だろうと思う。
全体としては、春期に比べて質の高い作品が多かった気がする。この勢いを保ったまま、秋期に突入してほしい。次回こそ大賞になる作品を生み出してくれることを期待しよう。