『QED 式の密室』高田崇史

(勝手に10段階評価。4が標準、10が最高)

 講談社ノベルス「密室本」キャンペーンの一冊として上梓された本作は、高い人気を誇るQEDシリーズの第5作目である。
 今回のテーマは陰陽師安部晴明とその使いである式神だ。陰陽師の末裔が密室で変死体となって発見された。その事件は犯人不明のため自殺として処理されてしまうが、30年の時を経て、被害者の孫は目に見えない式神が犯人だと主張する。その孫に相談され、30年前の事件の解決に乗り出した桑原崇は同時に安部晴明伝説の真相と式神の正体を解き明かす。
 今までの作品に比べてページ数の少ない本作は、物語の構成も前作までとは違う。いわゆる回想ものなのである。いつものバーで、崇が小松崎と出会うきっかけとなった出来事(上記の密室殺人事件)を奈々に聞かせるという設定だ。だから、現在の場面は変わらない。いつもは一緒に行動し、事件を解決していく奈々は完全に聞き役となっているのだ。
 そのような構成のためか、あるいは作品が短いためか、いつも以上に歴史の謎解きの比重が高くなっており、殺人事件の方は小粒になっている感じがする。歴史ミステリとしての側面は非常に面白く、勉強になる。しかし、このシリーズの魅力は、事件の謎解きと歴史の謎解きとが有機的に絡まりあっているところにあるので、その絡まりが軽薄だと物足りなく感じてしまう。事件解決時の奈々に対する祟の言葉は確かにその通りなのであるが、作者によるこじつけの印象を受けるのが残念である。
 逆に感心したのは、前作の最後に謎のまま残されていた「かごめ歌」の謎が冒頭でひも解かれ、しかも、それが本作の謎としっかり関係していて、伏線にもなっている点だ。QEDシリーズは基本的に年1冊ペースで刊行されているが(最近はventuresと合わせて年2冊)、一年後の次作を意識して伏線を仕掛けたというのは素晴らしい。おそらく、シリーズ全体の構成もしっかりと考えられているのだろう。
 十分に標準以上の魅力を持った作品なのだが、今までの作品のレベルが高かっただけに、厳しめの評価になってしまった。薄くなっても作品の重厚感はしっかりと保たれており、その点では、気軽にシリーズの雰囲気を味わえるという入門書的側面があるのかもしれない。もちろん、シリーズものは第一作から読むのが一番良いと思うが、本作で扱われるのは、第一作以前の出来事なので、「密室本」としてQEDシリーズに初めて触れる読者を意識して書かれたとも考えられるのである。