『ぼくらのサイテーの夏』笹生陽子

(勝手に10段階評価。4が標準、10が最高)
第30回日本児童文学者協会新人賞受賞

 1995年に「ジャンボジェットの飛ぶ街で」が講談社児童文学新人賞佳作となった、著者のデビュー作。デビュー後、数々の賞を受賞している、児童文学界注目の作家である。
 明日は夏休みという、終業式の日に問題を起こし、休み中のプール掃除の罰を与えられてしまった主人公。しかも、嫌いな栗田と二人きりで。こうしてサイテーの夏が幕を開けた。
 小学6年生の少年の冷めた目線で語られる物語は、大きな展開があるわけでもないのに、なぜかワクワクさせてくれる。大人に比べれば狭い世界も、子供にとっては十分に広い世界で、たったひと夏、一ヶ月ぐらいの間にもいろいろな出会いがあって、いろいろな経験をするのだ。そして、徐々に、でも確実に彼らは成長していて、悩みなんかなさそうでも、それぞれ悩みを持っていて、しっかりと本気で生きている。そんな少年たちの生き方や成長がストリートに伝わってきて、大人の目線で読んでいるのに、いつのまにか作中の少年たちと同化してしまうような感覚を抱かせてくれた。
 短い小説で、作中の時間も短いけれど、その倍以上の濃さを持った時間を過ごしている少年たち。かれらの成長を無理なく、ゆったりと心地よいペースで描いており、まさに一服の清涼剤と呼ぶにふさわしいた傑作であった。