『女子大生会計士の事件簿 DX.1 ベンチャーの王子様』山田真哉

(勝手に10段階評価。4が標準、10が最高)

 かわいいけれどなかなかキツイ女子大生会計士、萌さんこと藤原萌実と入所一年目の新米会計士補、カッキーこと柿本一麻の愉快なコンビが遭遇する事件の数々。バラエティ豊かな謎も萌のひらめきと、カッキーの地道な努力によって次々に解決されていく。そんな二人のコミカルなやりとりの中にも、事件を解く鍵が隠れている!?
 会計監査ってこんなに面白いのか?そう思わずにはいられないほどに楽しい。会計用語や会計の仕組みを分かりやすく説明するために設定された謎が、どれもみな個性的で愉快なのだ。
 たしかに、小説としての深みはそれほど感じられないかもしれない。しかし、文章も巧いし、構成も抜群。特に伏線の張り方が素晴らしく、短篇のお手本と言っても過言ではない。公認会計士が片手間に書いたなどと切り捨ててしまうことなど出来ないくらいに、魅力あふれる作品だ。
 キャラクターの造形も見事で、そのやりとりを読んでいるだけでも楽しい。萌さんとカッキーの掛け合いはテンポの良い漫才みたいだ。しかも、その掛け合い漫才の中に、しっかりと伏線が埋め込まれているのだからすごい。
 この作品の一番の魅力は、その伏線の妙ではないだろうか。会計用語などを分かりやすく学べるというのも嬉しいが、とてもきれいな伏線を味わえるのもまた嬉しい。小説としての構造も非常に分かりやすく作られているので、あまり小説を読まない人でも、伏線をしっかりと味わえることだろう。
 ビジネス書であり、実用書であり、入門書でも、参考書でも、そして小説でもあるという盛りだくさんの一冊である。それだけに、読む目的も人さまざまだろうが、どんな目的で読んでも損することのない作品であることは間違いない。